○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
|
ペンションの前の緩い坂道を野外博物館の方に向かって登りはじめたが、博物館には興味はない。気まぐれ心が現れ、途中でふっと道を左に外れ、奇岩群の中に足を踏み入れていた。するとほどなく、それまで全く想像していなかった世界に自分が立っているに気が付いた。一見、殺伐とした奇岩群だが、その足元にはなだらかにうねる白い砂の斜面が続き、あたかもそこの住人のような植物達が、それぞれ納まりのよい場所を見つけて静かに根を張っているのである。杏子、葡萄、瓜....。澄んだ空気のなか、すべてが生気に満ちている。たわわに実った杏子の実は、熟して根本の砂地にこぼれ落ちている。夕日を受けてくっきりと浮かび上がった濃いオレンジ色の実は、やはり夕陽に照らし出されてつややかに輪郭が縁取られた葉っぱの濃い緑と強烈なコントラストをなしている。誰かが栽培したものだろうか。無人だと思った星に降り立ってみたら、以外にも人の痕跡を見つけたときの衝撃。予想外の贈り物に、僕の心はみずみずしさで満たされ、大地と同化していくような気分になった。
(p184)
|
キノコ型の奇岩が林立するギョレメ。驚くほど空気が透明だ。
|