「光と音」  蒲 幾美  (随筆通信 月22より)
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光と音
蒲 幾美

 家中に小さな灯が点滅している。昼になると家人の居ない静かな日はあちこちでピピピピと鳴る。何の信号なのか迷う。食器洗機の終了音。ピンポン嶋るのは玄関、電話のベル、二階で突然嶋り出し次第に高音になるのは目覚し時計らしい。ある時は音楽が流れていたのは誰もいない浴室からだった。時たま自分のポケットの携帯電語に驚くこともある。

 夕方になると風呂の湯が入った合図や炊飯器の炊き上がった音。都内に米寿で一人暮らしの知人がいる。息子たちが心配して妻君たちが交替で家事を手伝うことになった。新しい炊飯器を持参して、予約タイムを教えようとするが、覚えようとしないのか覚えられないのか、お互い譲らず当番の日数を果たさずして解除となった。

 ある日どこかでブザーのような音がする。家の中で音の出そうな所は無い。三時間ばかり経った夕方、外が騒々しい。隣家の防犯ベルが何かのはずみで作動して鳴り続け、裏の住人が気付いて一一〇番。パトカーが駆けつけ、外出先の隣人が帰宅して防犯ベル騒ぎは終了した。

 田園都市のわが家の周辺はこのごろ空巣の被害が多く、家人の外出を見届けて金庫ごと持ち去るなど、昼でも戸締りは厳重にと心掛けているが、怪しい人物が近寄れば大型の猛犬が吠えるだろうと頼りにしている。

 大家族で使っていた洗濯機と冷蔵庫が寿命がきて買い替えた。ところがこの音も気になり出した。夜半にガチャ、ガチャと鳴りびっくりして飛び起きた。冷蔵庫の一隔に製氷室があり氷が出来ると受器に落ちる音と知った。

 洗濯機は複雑な操作をこなせば便利なのだが、コースの予約から脱水、乾燥まで十余りの指示があり、ゴトン、ゴトンと長時間鳴り続ける。一旦作動したら途中で洗濯物を加えることは出来ず、脱水だけと思っても、これまた操作に手間どりせっかちの私にはとうていダメ。

 孫娘の結婚祝に金子を贈ったら、夫婦勤人の新家庭では雨風に心配ない乾燥までの全自動の洗濯機を買ったという。朝入れた洗濯物は帰宅するとほかほかに柔かく乾いていて、思わず頬ずりしたとのこと。新家庭で一番金をかけ有難い思いをしている洗濯機を「おばあちゃんの洗濯機」と呼んでいるという。

 馬鹿と鋏は使いようと言うが、機械を使いこなす者と機械に負ける者の暮らしの差は大きい。大正生まれの女性は殆んどが家事育児や老人の介護は当然と思ってきたが、時代が進み、初めて電気洗濯機で洗いと脱水ができた時、家事労働の時間が短縮された喜びを知った。

 人間の幸せのために英知が生んだ科学は日々進歩してゆく。小さなものからロボットや大きな原子力まで。三浜原発事故から思いは暗い方へ…。機械化で将来は人間の体力は落ち、ロボットに家事や介護を頼り、ロボットの持った包丁で刺されたりしないかなど…。とまれ、杷憂よ。

(川崎市 郷土史研究家)

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随筆通信 月 2004年8月号/通巻22号


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