「紫陽花」  池部淳子  (随筆通信 月31より)
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こいしかわだより
紫陽花
池部淳子

 都営三田線白山駅の近くにある自山神社は、紫陽花の花で知られています。周囲の商店街は「あじさいまつり」の旗を立てて、催しものをもりたてています。湿気の多いこの時期に生彩を放ち、「七変化」と呼ぱれる風情をもったこの花は日本人の季節感を呼び覚ます代表的な花です。

 実はつい先日のことです。野菜のたくさん入ったダンポール箱が友人から送られてきました。「うれしい。また送ってくれたのね。ついつい野菜不足になる私にはありがたいわ」などと考えながら、その荷を開けると、いちばん上に青い花を付けた紫陽花の一枝が横たわっていました。

 花瓶に生けた紫陽花は旅の疲れを忘れたかのように元気になって、私を喜ばせました。

 この友人が宅配便の野菜の中にそっと忍ばせてくれた花に私が飛び上がるほど驚き感動した、最初のできごとは臘梅でした。

 この友人は、私がいわきから上京してまもなく、学生時代に知り合った友人で、以来三十年以上、「元気でいます」を知らせ合うだけの年賀状交際が殆どでしたが、友情は続いていると互いに確信を持ち合っていた間柄でした。

 千葉に住んでいるこの友人に、随筆通信を発行することにしましたと近況連絡かたがた『月』を送りました。しばらく音沙汰なしで過ぎました。私はいつものことと気にかけず、彼女の母上も大分高齢になられたはずだから、日々大変なこともあるのだろうなどと勝手に考えていました。

 ただ、毎年柿の実る季節になると決まって「母と一緒にもいで、一緒に荷造りしました」の便りと共に、たくさんの柿の実が届きました。この柿の色がみごとに濃く輝いていて、美しい柿色でした。私は都会ではもはや見ることのできなくなった、燦々とふりそそぐ太陽のひかりを想像して、この友人と母上のおもいやりに深く感動しました。

 その友人から突然、ダンボール箱の宅配便が届きました。柿の季節でもないし、これはどうしたことかしらと思いながら荷を解いて、箱を開くやいなや、中から湧き起こるように良い香りが立ちのぼったのです。思いもよらないこの美しい香りに私はびっくりしてしまいました。何と、その香りの正体は臘梅だったのです。

 友人は私が俳旬を作るということを知って、役に立つかもしれないと、荷造りの最後に臓梅の枝をそっと忍ばせてくれたのです。私は臘梅の透き通る花びらとその香りが大好きでした。それにその日以来、膿梅には忘れられない思い出が一つ加わりました。

 以来、一つ一つ紙に包まれた野菜が詰まっているダンポール箱が時折届きます。そして野菜の上には、その時期の身辺の花が恥じらうような風情で載ってくるのです。

(『月』発行人)

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随筆通信 月 2005年7月号/通巻31号


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