「石油がなくなる日」  杉山康成  (随筆通信 月31より)
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石油がなくなる日
杉山康成

 このところ石油価格は不気味な上昇を続けている。これまでひたすら増え続けてきた産油量は、ここに来てそのぺースに翳りが見え始めている。多くの専門家の間では、今後の採掘技術の進歩を考慮しても、石油の産出量は現状がほぼ限界で、将来的に減少に転じ、2050年頃には今の半分くらいまで落ちるのではないかと予想されている。限りある資源であるにもかかわらず、人類は石油を使い放題使い続けてきたが、産油量の頭打ちという事態に至って、市場もとうとうその重大さに気が付いたのである。

 もし突然、石油の供給がストップしたらどうなるか。クールビズで省エネする程度で済む話ではない。そもそも、20世紀の世界の人口の急増は、人口を支えるために必要な食料生産や物流などの能力が、石油という地下から湧き出た恩恵によって飛躍的に向上したおかげである。石油がなくなれば、途端に現在の世界人口をまかなうことはできなくなる。さらに、20世紀に人々の生活の質を劇的に変えた科学枝術、そしてそれによる世界的な経済の拡大は、石油なくしてはありえなかった。現代社会は石油の上に成り立っていると言っても過言ではない。

 もちろん石油はある日突然なくなるわけではない。それに向かう過程で色々な対策が打たれるだろう。石油に代わる再生可能な資源として、昨今ではバイオマス(生物資源)の有効利用を叫ぶ声も高い。しかし、これまで石油に頼ってきたものを、バイオマスですべてまかなうことは、量的にも質的にも到底無理である。石油はそれだけ並外れて手軽で便利な資源だったのである。ポスト石油社会においては生活の便利さは間違いなく低下する。人類は生活と価値観を大幅に変える必要に迫られるに違いない。

 今後、石油をめぐる争いはますます熾烈になっていくだろう。イラク戦争が石油利権の獲得を目的にしたものであったことは周知の通りである。今後、石油の争奪戦が人類を戦争にすら巻き込んでいかないとも限らない。一方で、企業においては石油を使わない技術開発もすでに始まっている。自動車メーカーが省エネカーや燃料電池車の開発にしのぎを削っているのはその典型だろう。ポスト石油への対応は、石油が不足してからでは遅い。石油不足にいち早く対応できた企業のみが優位に立つことができる。石油がなくなる日を見据えての、生き残りをかけた企業間の壮絶な戦いはすでに始まっている。

 石油の不足は、社会のパラダイムシフトを引き起こすに違いない。これまでのように大量生産し大量消費させたものが勝つ時代は遠からず終るからである。その結果、人々の関心が物質的なものから精神的なものに向かうと期待するのは楽観に過ぎるだろうか。

(東京都 会社社長・理学博士)

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随筆通信 月 2005年 7月号/通巻31号


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