「汚い海」  池部淳子  (随筆通信 月34より)
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こいしかわだより
汚い海
池部淳子

 半年ほど前から月二回フランス語を習っています。と一言うと、語学が得意かと思われるのは困ります。私は外国人が近づいてきたらさりげなく、そっと身をかわす方です。

 会社に勤務していた時には、机が揺れるほど速く欧文タイプを打つすこぶる優秀なA氏という通訳がいたので「Aさん」「Aさん」と呼びに行っては、外国人は全て彼まかせ。しかも、A氏のようでなければ語学は何の役にもたたないと決め込んで、愚かにも努力を放棄してしまいました。以後、外国語とは全く縁がなくなってしまいました。

 ところが、何と「フランス語を習いませんか」というお誘いが来たのです。「えっ」と驚きましたが、人生これが最後のチャンスかと思いました。語学はさておき、外国人と向き合ってもびくびくしないようになれるかもしれない最後のチャンスではないか……と。

 日本語を知らずに日本に来たソルポンヌ卒業の青年が先生で、外国語は忘却、フランス語などチンプンカンプンの私の他に、語学力はかなりの二人が生徒で、レッスンが始まりました。私だけが文字通り、「冷汗のかきっぱなし」で、秋になっても汗だくだくのレッスンです。

 さて、夏も終りちかいレッスンの日でした。「ポク、センシュウ、ヤスミノヒ、ウミエイキマシタ」「何処の海ですか」「イズノウミデス」「伊豆の何処ですか」「ワカリマセン」と始まった会話で、フランス人から日本を知らされることになりました。

 彼は言います。「トウキョウ、キレイ。パリ、キタナイ。デモ、パリノソト、シゼン、キレイ。トウキョウノソト、シゼン、キタナイ」「イズノウミ、キタナイ。タマネギ、プカプカ、タバコスイガラ、ペットボトル、カン……。コドモ、ペットポトルト、オヨイデイル」

 これを聞いて私たち生徒三人は恥かしくて顔が強張りました。各々自宅の周辺は綺麗にするのです。でも、公共の場を美しくできません。富士山が世界遺産に指定されないのはゴミが多くて汚いからと聞きました。

 「ニホンワキレイ」と言われるように公共の場を美しくしたい。個人の努力はもちろん、国は日本を美しく保つための対策にもっともっと取り組んでほしい。心からそう思います。

 ところで偶然10月2日の朝日新聞「水平線地平線」というコラムに「フランスの美しい公共」が書かれていました。パリから地方へ新幹線に乗ったとき窓越しの光景があまりにも美しいこと、そして運賃は安く、目的地に着くと、田園地帯の公道は4車線、110キロで飛ばしても無料……など。

 フランス語の若い先生が語った公共の美についての観察をフランスに行った日本人が期せずして裏付けていました。

 ああ、日本は汚い海をいつの日かきれいな海に変えられるでしょうか。

(『月』発行人)

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随筆通信 月 2005年10月号/通巻34号


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