「心の住みか」  杉山康成  (随筆通信 月34より)
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心の住みか
杉山康成

 10年ほど前に家を建てようと思ったことがある。どうせ建てるなら、山から自ら材木を調達し、とにかく無垢の木と石をふんだんに使って、自然素材に抱かれる家にしたいと思っていた。しかしこの計画は、諸事情により宙に浮いてしまい、結局、今だに賃貸マンション暮らしを続けている。すでに土地があることもあり、ずっとマンションを買うことなど考えたことがなかったのだが、最近、この十数年の間に払った家賃が馬鹿にならないことに気が付き、ふと、中古の分譲マンションでも探してみようかという思いが浮かんだ。試しにインターネットで検索してみると、案外、手の届きそうな物件がちらほらある。さっそく不動産屋さんに頼んで、いくつかの部屋を見せてもらうことにした.

 家族で住む家は、僕の一存で決められるものではない。今住んでいる場所は、僕にとってはもともと縁もゆかりもない土地であるが、子供達にとって事情が違う。特に、現在通っている学校に、今後も無理なく通い続けることができるという条件は、彼らにとっては譲れないものなのだ。従って、まずエリアに大きな制約がある。さらに、広さ、間取り、日当たり、外観、セキュリティーなどの諸条件が、現在の賃貸マンションより改善しないと、家族は納得できないらしい。駅からあまり遠いのも困る。しかも、住居費が現在より下がらなければならないとなると、これはもう、そう簡単に見つからない。間取り図と地図をにらみながら悪戦苦闘する日々が始まった。

 そんな矢先、TVで建築家の藤森照信氏を紹介する番組があった。氏はもともと建築史家であったが、15年ほど前に、ある資料館の設計を依頼されたのをきっかけに、設計を手がけるようになった。徹底的に自然素材にこだわる氏の建物は、現代のモダニズム建築とは全く逆を行く。縄文人はかつて、竪穴式住居のなかで、どんな気分で暮らしていたのだろうか?住居が持っていた、原始的な肌触りを現代の建築に取り入れたい。氏の思いはひたすら非工業的なものに向いて行く。その結果、住居の壁や屋根一面に植物を生やし、毎日の水遣りを欠かせばたちまち枯れてしまう住居ができあがる。

 果たして住みやすいかどうかは疑問である.しかし、そこでは家は単なる「箱」ではない。家自体と強く係わるうちに、ついにはそこに住む人の心に棲みついてしまう、そんな家なのである。

 藤森氏によれば、人は自分が生まれ育った家や路地などを前にしたとき、最も強く「懐かしい」という感情を抱くそうである。家は、知らず知らずのうちに、そこに住む人の心に深く入り込んでいるのである。今回、いろいろ観てみて、分譲マンションと言えども、それぞれ個性があり、驚くほど違った印象を覚えた。今回のマンション巡りは、どうやら我が家のメンバーが、自らの心の住みかを探す出発点になりそうである。

 E-mail:ebiman@kb3.so-net.ne.jp HP:http://ebiman.fc2web.com/

(東京都 会社社長・理学博士)

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随筆通信 月 2005年10月号/通巻34号


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