こいしかわだより
意志
池部淳子
新年おめでとうございます。
新しい年を迎えると、手渡された真っ白な紙をみるような新鮮な気持ちになるのはありがたいことです。新しい一年は年齢に関係なく未来として等しく誰の前にもあります。だから何歳になっても新年を迎えると夢や希望が湧いてくるのかもしれません。過去はやり直すことはできません。でも、未来には望みがあります。未来こそが重要です。
私が随筆通信『月』を発行して丸三年が経ちました。わずかな頁ながら、それこそ未来には何とかするぞと思いながら、月々発行してきました。自分の力に余ることをすると長く続かないと自分に言いきかせて、欲の出るのを押さえながら…。
幸いなことに蒲幾美さん、杉山康成さん、という二人の実力あるエッセイストを迎えることができて、極小ともいうべき通信を質の高い内容にすることができました。私に幸運を下さったお二人に心から感謝しております。
実は私自身今年は大きく変化する年にしようと考えました。十八歳で上京して以来、いわき市に住んでいた父母の介護のために五年ほど東京を離れたことはありましたが、それ以外の歳月に住み慣れた東京でした。でも、両親の残した家が住む者なく荒れ放題なのを見るにつけ、何とかしなければと気がかりでした。そこで、思い切って家を私用にリホームし、そこに住もうと決意しました。
二月には福島県いわき市勿来の住人になる予定です。次号の2月号をもちまして『こいしかわだより』は最後といたします。
かつて東京は地方の若者にとって魅力的な都会でした。情報手段も流通手段も発達していなかった頃、政治、経済、文化の中心として、東京は未知の世界、魅惑の世界でした。でもいまや日本は狭く、いや、世界が狭くなりました。東京でなければ不便、ということも少なくなりました。いわき市にも住み方があるだろうと思います。
山海の自然が豊かだった故郷いわき市も変貌していると思います。東京に住んだ者が帰って故郷を視るというのも一つの視点かと思います。性急ではなく、スローぺースの暮らしになれば、思考が深まるかもしれないなどと楽観的になったりもしています。自分の意志によって決定した未来に不安を含みながらも踏み出そうとしている新年です。
人生がいつも同じというわけにはいかないことを経験によって知りました。年齢と共にそれは寂しいことですが、反面、それは未来へ出発できるということでもあります。
過去に乾杯!未来に乾杯!そして新年に乾杯!
(『月』発行人)
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