信頼
池部淳子
風が冷たくなり、南天の実が赤くなった。冬になっていく。いわきの冬は風が問題。風があるかないかで全く違う冬の日になる。天気が良くて風がない日には決まって思い出す句がある。
山国や夢のやうなる冬日和 阿波野青畝
風の強いいわき地方にも思いがけず、この句のようなのどかな日がある。感動的なこんな日を味わいながら、長い冬に付き合っていく。
年末に近づき、俳句の会でも忘年吟行旅行というのがある。私の行っている句会では、日常の生活から離れ、作句の意欲を誘いそうな山とか海の自然に近いところ、あるいは珍しい行事を見物できるところなどで、しかも、俳句会を開くことが出来て、おいしいものも食べられそうな宿をさがす。
その日は、いままで一緒に俳句を作りあい、鑑賞しあった仲間として、これまで学んだ技を競い合ったり、親しく語り合つたりする一泊旅行にしている。
年一回の忘年吟行旅行も、最初のうちは句会がメインで、宿での夕食会は食べて飲んで雑談してお開きとなった。宴会というには生真面目というか、おとなしい席で終った。
だが、年月を重ね、会員それぞれが理解しあい、人柄が信頼できるようになるにつれ、年々宴会も昧を出せるようになってきた
たとえぱ、今年はこういう所はどうでしょうかと、情報を集めてくれる会員、宿との折衝・出欠のお世話など行き届いた段取りをつけて、宴会の進行をしてくれる会員、詩吟を吟じて会の格調を保ってくれる会員、思いがけないオカリナの演奏で会員を驚かせたり喜ぱせたりする会員、手話を披露しくれる会員、皆の合の手に合わせて楽しいカラオケを歌ってくれる会員など、長年のうちに積み重ねた会員それぞれの個性の表現が句会・宴会に表れるようになり、一泊二日の旅を俳句以外でも全員で楽しめるようになってきた。
年一回の忘年吟行旅行。かなり前から日程を決め、出席できるように会員それぞれ体調や用事を調整して当日を迎えるが、どうしても参加できないことも起こる。当日身内で結婚式があつたり、逆にすっかり旅支度を整えたところに身内に不幸が起こって急遽欠席することになることもある。それぞれの人生の中の二日である。思いがけない何かが起こる可能性はある。
だが、私の句会の嬉しいところは、全員がその日のためにベストを尽くしてくれることである。用事を調整して句会だけは出席します。宿泊は出来ないけれど宴会までは出席しますと。それぞれが全員と居る時間を少しでも作ろうと努力してくれる。会のために自分のできることをそれぞれが考えてくれる。その誠意が皆に伝わる。そこに信頼が生まれる。年一回でも一つのことを供にやりとげることが会員同士の経験となり、親しみとなり、次第に信頼し合える間柄になっていくことがこの忘年吟行旅行でわかる。
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