「生きるってことでしょう」 杉山康成  (随筆通信 月60より)
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生きるってことでしょう
杉山康成

 最近、妙に心にしみこんできた言葉がある。養老猛さんがテレビの対談で発した、「要は、生きるってことでしょう」という一言だ。

 養老さんは、東大の教授を定年を待たずに辞めた。人生をやり直すには、定年まで待っていては遅過ぎると感じたからだ。しかし、辞めてみて、改めてそれまで自分で考えていた以上にいろいろなことに縛られていたことに気がついたという。

 人は知らず知らずのうちに、色々なことに縛られている。養老さんですらそうであった。サラリーマンは会社に縛られ、自分で会社をやれば会社の経営に縛られる。子供は子供で、勉強や学校に縛られている。もちろん、そうした生活が楽しくて仕方がない人もいるだろうが、そういう人ばかりではない。もともと、どう生きるかは自分の勝手なはずだ。特に、われわれが住んでいるのは、世界有数の先進国であり、大半の人にとって明日の食べ物を心配する必要などない。誰でも自由に生きてよい環境にあるはずだ。むしろ自ら進んで社会に縛られ、自分の居場所を狭めてしまっているのではないのか。

 リストラにおびえるサラリーマンにとって、会社は楽しいはずもないのに、逆にしがみつこうとする。今辞めても行くところはないし、給料は下がるだけで良いことはない。今の会社で出来るだけ頑張るのがベストなのだ、と自分で自分に言い聞かせている。もちろんそれはあながち誤りではない。家庭を守り、子供を大学に通わせるためには、我慢することは大切だ。さっさと辞めてしまうのは、むしろ無責任だともいえるだろう。しかし、人生は一度しかない。本当にそれでいいのか。家族を守るためなどと言っているが、実は勇気がないだけではないのか?少なくとも、早く定年が来ないかと待っているなんて、異常だとは思わないか?

 もっとも、思い切って辞めたからといって、急に道が開けてくるわけではない。人生、そうそう甘くはない。では、一体どうすれば良いのか。その答えが、「生きるってことでしょう」という養老さんの叫びなのだ。いろいろ悩んでいるうちに、肝心の生きることをすっかり忘れてしまい、何かにつけてもっともらしい理屈をつけて悩んでいる。そんなあなたは、生きながらにして死んでるんじゃないか?彼は、そう問いかけているのだ。

養老さんの言葉に、思わずハッとさせられたのは、恐らく自分自身が悩んでいたことへの答えが、ずばりそこにあったからだ。僕は、回りの人からは、やりたいことをやっている人間だと思われているが、決してやりたいことがやれているわけではない。むしろ逆で、自分がやりたいことはいったい何なのか、この歳になってもずっと探し続けているのである。しかし、養老さんの言葉を聞いて、自分があまりにも、「やりたいことをやらねば」という考えに縛られていることに気づかされたのである。そして、それは難しくても、「生きること」ならできる、そう思ったのである。何しろ、面白いことはいくらでもある。すると、何か急に肩の力が抜け、同時に心の中で熱いものが湧き上がるのを感じたのである。

(東京都 会社社長・理学博士)
E-mail:ebiman@kb3.so-net.ne.jp HP:http://ebiman.fc2web.com/

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随筆通信 月 2007年12月号/通巻60号

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