得意技 池部淳子  (随筆通信 月61より)
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得意技
池部淳子

 明けましておめでとうございます。

 新たな気持で新年を迎え、一日一日を一期一会と思いながら、大切にして過ごしてゆきたいと思っております。

 皆様のご健勝とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

 さて、今年はささやかでも人の役に立つ、何か得意なことをひとつ身につけたいと考えている。

 無論仕事というのはプロの技術を持つということで、これは当然のことだが、ごくごく日常の生活でこれなら絶対に役に立ち、提供すれば必ず喜ばれるというものや技術を、確実にもっているかというと、私は意外に思い当たらない。

 じつはひとつ具体例がある。S子さんは折々厚焼き王子用のフライパンを欲しがつていた。やがてそれを手に入れて、ある日厚焼き王子を作ってきてくれた。玉子十個で作ったというその厚焼き王子は、大きくて厚くて昧もプロ級、見た目も味も素晴らしかった。私は感心して、これならどこへ持っていっても喜ぱれ、役にもたつと誉め称えた。彼女は以来、手土産にこの手造りの厚焼き王子を持って行って賞賛されている。

 もう一例は私の叔父の例。私の母は男兄弟だったたった一人の弟が戦死して、姉妹ばかりとなった。それで末の妹が婿を迎えて家を継いだ。私の叔父叔母である。この叔父が家の梅林を利用して、毎年梅干を作り、毎年届けてくれる。二十年以上続けているらしいが、塩や紫蘇など吟味して、丁寧に作っているだけあって、その梅干のくれないの色といい、味といい、素晴らしい。私は今ではフランスの友人にまでお裾分けをしている。

 この二つの例で考えた。技術が安定していて、失敗無く作れて、相手の役に立ち、喜ぱれるような腕前のものを、何かひとつ持ちたいと。

 たつた一つでよい。簡単なものの方が良い。「あれが上手よね」とか「あれがまた食べたいわ」とか「あれお願いします」とか望みをもたれるような何か一つ、確実に持ちたい。  

 大体は買って差し上げれぱ事は足りる時代である。でも、手造りのものというのは一昧違う。時間をかけた分の心があるというか、努力の誠実さがこもっているというか、有り難味がある。感動がある。上手で、美しけれぱ、なおさら素晴らしい。  

 私はあまり複雑ではなく、身近な材料で、スワッというとき手早くできるようなものに決めたいと心がけている。  

 決まったなら試して、修練して、上手になりたい。ささやかなものごとでも、相手を感動させるものをもっているということは幸せなことだと、このごろ思うのである。  

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2008年 1月号/通巻61号

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