散歩 池部淳子  (随筆通信 月63より)
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散歩
池部淳子

 二月の半ばを過ぎたあたりから大分日が延びてきた。冬なら夕方五時には暗くなるが、五時半を過ぎても明るい。いかにも春めいてきたという感じである。

 日が延びたせいもあるのか、夕方散歩する人を見かける。靴や防寒の身支度をきちんとして、リズムよく歩いていく人が多い。

 身体に良いから歩くようにと大勢の人から私も勧められた。でも、訳もなく自分の身体を信じたり、億劫だったり、ついつい仕事の区切りがつかないまま日が暮れてしまったりして、定期的に何分歩くということをしないで過ごしてしまった。

 去年の十一月半ば、腰が痛んだ。またギックリ腰だろうと自己診断していたが一ヶ月過ぎても痛みが退かない。どうも変だと、昨年末思い立って成型外科医院へ行った。「背骨の骨と骨の間の軟骨が減り始めています。年齢相応ですね。いまはぎりぎりですが、骨粗鬆症にならないように」と、食べ物に気をつけるように、日光浴をするように、そして歩くようにと注意が書かれたパンフレットを渡された。やはり歩くことはかなり重要なのだと、気になりかけていた。

 そして、今年になってまもなく、下肢静脈瘤について書かれた本の広告が新聞に載っていたのでそれを購入した。

実は二年前から左足内側の欠陥がところどころ膨らんでいた。でも、女性に多い症状で、特別に気にすることはないという情報が多く、それならばと、放置していた。

でも、虫の知らせというのか、新聞の広告を見て、まあ、念のためにと、軽い気持ちで書店に購入を申し込んだ。

なんとその本で、歩くことの本当の意味を知ったのである。

心臓から出た血液は動脈を通って体の隅々まで運ばれ、組織に酸素や栄養物を与える。そして、炭酸ガスや老廃物を取り込んだ血液は今度は静脈を通って心臓へ戻る。静脈の血液が心臓へ戻ることを静脈環流と言うのだそうだ。  

動脈の中の血液は心臓の働きによって身体の隅々にいきわたるが、心臓の働きは静脈の流れには及ばない。静脈の血液は呼吸するたびに心臓の方向へ流れるのだそうだ。その時、足では、ふくらはぎのポンプ作用が重要な役割をはたす。ふくらはぎの筋肉が収縮すると、その間にある血管は圧迫されて心臓の方向へ血液をしぼり出し、筋肉がゆるむと足の先のほうからくる血液が取り込まれる。つまり足の血液が心臓にもどるためには、収縮・弛緩するふくらはぎの筋肉が非常に重要で、ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれているのだそうだ。  

これを知って私はびっくり。大変だと、ダウン、マフラー、帽子、手袋と着込み、仕事に区切りをつけて日暮れに三十分ほど歩き始めた。散歩はなぜ必要か、判ったとたんスタコラと歩く自分が可笑しかった。  

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2008年 3月号/通巻63号

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