初桜 池部淳子  (随筆通信 月64より)
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初桜
池部淳子

 四月に入った。庭には白木蓮が満開である。鳥の大きなくちばしのような蕾が殻から抜け出すようにして白く膨らんでいくが、暖かくなった日、木の上の方から花びらがゆるみはじめ、上向きの小さな鐘のような優雅な形になってたくさん宙に浮かぶ。

 この白木蓮の木は植えてから十四、五年経っている。車椅子に乗った母をつれて稲荷神社の祭礼の出店を見に行った時、真紅の花が咲くよと言って奨められた薔薇の太い苗木と、親子で大好きだった白木蓮の苗木を見つけて、買って帰った。薔薇は虫につかれて枯れたが、白木蓮は成長した。今では狭い庭の中央に二百個の花を掲げる樹となった。

 白木蓮が形良く開いたとき雨が降ると、残念なことに花びらが雨に打たれて外側に垂れてしまう。大きな口を開いたようなたるんだ形になって、花びらも弱ってしまう。風にも弱い。ぴらぴらと吹かれ続けると、花びらが痛んで色もくすんでしまう。今年は開き初めに雨も降り、風も吹いたが、雨は小降りで、風も強風にならず、どちらも軽く済んだので、珍しく見頃をゆっくりと味わえた。

 居間で座卓を前にして座ると、正面に白木蓮が見える。この家を十年間留守にして東京で暮らしていた時には、帰った折に伸びた白木蓮が他家の邪魔にならないようにと枝を切っていたが、今では私の手に負えない大きさ。見かねて隣家のご主人が枝を払って形を整えてくれた。お蔭で花を楽しめる。

 この白木蓮の見頃が過ぎた頃、いわきでは桜が咲き始める。

東京は3月末には満開だったという。私は3月30日、散歩の途中に一本の木に初桜を見た。わずかに一枝、二、三輪の初桜だった。近づいてしげしげと眺めてしまった。買い物の道すがら、小中学校の校庭をはじめ、あちこちの桜を楽しめるのも間もないことと思う。

桜が散って葉桜になる頃は新緑の季節である。周囲に山が見えるここは新緑のころが自然の素晴らしさを実感する時期である。

新緑に膨らんだ山がぐっと近づく。いわきの底冷えもついに溶ける。空気も酸素が多くなるのか、すがすがしく感じられる。山や川や海の自然に感動できるのは、4月、5月にかけてのこの季節であり、都会では味わえない自然の良さ、ありがたさを感じる。みどり多いこの季節が私は好きである。

勿来に移り住んで2月で二年過ぎた。この地域の暮らしぶりも少しわかってきた。良い季節を前にして、自然の素晴らしさに感動しながら、地域の暮らしの中から学び、自分に有意義な日々を送りたいと思う。  

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2008年 4月号/通巻64号

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