空梅雨 池部淳子  (随筆通信 月67より)
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空梅雨
池部淳子

 今年のいわきは7月に入っても湿気はあるがさほどの雨は降らない。降ってもすぐ止んで晴れてしまう。空梅雨なのだろうか。

 梅雨の時期だ!と覚悟しているというか、先入観がしっかりできあがっているので、降っても降っても止まない梅雨というのも根負けしそうで滅入ってしまうが、空梅雨になればなったで、何となく宙ぶらりんで落ち着きが悪い。人とは自分の都合の良いようになってもらいたいものなのだ。

 気候温暖化のせいなのだろう、いわきへ移る2年前の東京では、既に集中豪雨という現象が起きていた。

 夏の夕立代りというか、急に黒雲が固まって、それも並みの黒雲ではない、周囲の街が一気に暗くなるほどの黒雲が覆い被さってきて、大粒の雨が二粒三粒ぼつぼつとと落ちたかと思うと、いきなりドサッと強烈な豪雨。坂は流れ放題、堀は溢れる、地下鉄の出入口からは雨水が飛沫となって流れ込んで来る、外を歩くことなど不可能である。文字通りの集中豪雨。雨の量といい、その音といい、恐ろしい。

 それが三、四十分過ぎると嘘のようにカラリ。空は快晴。夢か、現か、悪夢のあとかと、信じ難いようにカラリ。こういうのは熱帯地方のことではないのか・・・と、行末恐ろしいと感じた。

東京を去ろうと決意した理由はいくつかあったが、気象の変化もそのうちの1つだった。それは夏の高温化である。四十年暮らした東京の変貌はそのスピードとともに凄まじかった。青春時代は魅力と未来のある都会であったし、希望に応え得る東京であった。だが、人があらゆる可能性を実現しようとした貪欲な時代を経た結果、大きな変化が起こった。気象の変化、つまり夏の高温化である。

昼間の外気は実感としては四十度であろう。天気予報で37度などと言うときは、人が歩く舗装道路の表面などは40度になっているのが実感である。夜は連続熱帯夜。この現象は進むとも弱まらないと思われた。この酷暑の不健康と理性の衰弱を引き換えに得られるものはもはや東京にはないと感じさせた。東京の夏の暑さはそれほどにひどくなっていた。

徳川家康が江戸に幕府を開いた先見の明は感動的だ。広大な関東平野の地理といい気候といい、人間の活動の地として見事な選択だと感じ入ったものだった。

その後およそ四百年。科学の進歩発展と人間の自由実現の思想によって重ねた世紀の結果、東京は視覚的・内容的にはもちろん、気象的にも変質した。最も働き易く暮らし易い所が人間を苦しめる所に変った。  

夏になるとあの暑さが甦ってくる。いわきの緑の中に居て、こんな良い所の夏なのだから、夏も大事に生きようと思ってしまう。  

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2008年 7月号/通巻67号

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