二つの故郷 池部淳子  (随筆通信 月74より)
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二つの故郷
池部淳子

立春を明後日にして今日はよく晴れて明るい。春近しと感じさせる光である。庭の木蓮の蕾が、「さあ、これから大きくなっていくぞ」とでもいうような雰囲気で、張りつめている。

四十年を過ごした東京を去って、私がいわきへ帰ってから二月一日で丸三年になる。

十八歳で去ったときのいわきと四十年後のいわきは見るからに違っていたし、もどった時の年齢によってもいわきでの暮らし方は昔と同じではない。

すぐには慣れないかもしれないと予想はしていたが、やはり予想通りであった。三年経ってやっと身体が気候に馴染み、感性も働くようになって、暮らしようも見え始めたように思う。ただ、生活の範囲が狭いので、暮らしていてもまだまだ遠い故郷である。

いわきの魅力は何といっても「自然」である。山あり、海あり。人は自然の中に住み、自然と共に暮らし、自然の四季に感動しながら、自然からの恵みを受けて生きてゆく。

東京に住んでいたとき、思い出すのはいわきの豊かな自然であった。澄んだ空気、広い空、遠くの連山、煌々たる月、満天の星、大きな落日、迫るほどの新緑、燃える紅葉、都会にあって私は自然に飢えている自分を感じた。

さて、その自然豊かないわきに帰って暮らし始めた今、四十年暮らした東京の都会の良さが懐かしい。

東京の気候は暮らし易い。と言うより、働きやすい気候である。近年夏は凄まじい暑さになってしまったのが残念であるが、上京して上野に着き、電車を降りたとたん、私は身体が柔かくほぐれるのを感じる。そして足どりが軽くなる。東京はそれほどに身体にとって行動し易い気温なのである。

大勢の中で生きるスピード感・緊張感、自由と責任の判断力、世界との同時性、文化への関心、環境からファッションまでの美意識など、都会には魅力がある。

それと都会には組織力がある。都会は人間関係が稀薄であり、自己防衛が固い。他人の生活に介入しないのが常である。そのため問題解決のための組織があり、その機動力がある。大勢の人間が暮らす都会ゆえの対応なのだろう。

東京を離れて、都会の行動の自由、精神の自由がわかる。 

東京を去る直前に、俳句会を開こうということになって、それなら私がいわきから来ましょうと、句会を開くため月一度上京することになり、東京と縁がつながっている。

私にとって都会に暮らしたときには、感性豊かな少女時代をすごした自然豊かないわきが故郷、いわきの自然の中で暮らしている今は、四十年暮らして馴染んだ自由の都会・東京が故郷のような心持ち。心には二つの故郷がある。

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2009年 2月号/通巻74号

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