老いのつぶやき D情報取材(2) 蒲 幾美  (随筆通信 月74より)
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老いのつぶやき D情報取材(2)
蒲 幾美

染髪とセットが済んだ頃、自宅から電話があった。迎えに出たという。

予備の椅子に掛けると甲高い声のオバちゃんの顔が鏡に写った。色白の艶肌、ベージュのスーツと同色のベスト、靴と手さげも茶系のブランド物で統一、成程自慢していた通り。

左側の女性は四十歳に近く色白でしきりに髪を黒く、黒くと、ブラックを主張している。「センセイにおまかせするワ」と言いながら。私が正直に私の考えを言いますと、ブラックは重く暗い感じがしてお年が老けて見えるので出来るだけ明るい色になさった方がいいと思います<Zンセイは、本音でさとしているが、彼女はあくまでも黒にこだわっていた。人それぞれ他人には言いたくない何かがあるのだろう。

「しばらく迎えの車が着くまで待って下さいネ、椅子が動かないよう固定しておきますから」電動椅子ではないけれど立ち上がるとき椅子の車が動いて転んだりしたら大変との思いやりでありしかたがあるまい。地方出の国会議員並みにまな板の鯉というところ。五分、十分を意識した刻の長さの苦痛。目の前のカウンターの小さな瓶にまりもが入っていたが二ヶ月ほど見ないうちに15■になった。会話の合間にも静かにクラシック曲が流れ、室内の四季折々の野の花や,色とりどりの洋花は美容院での安らぎの原点かもしれない。新しい客が玄関に入った。いらっしゃいませ。「今日は病院帰りで時間がかかったのでシャンプーとセットだけお願いします」病院は腎う炎病院ですか?∴齔トに笑い声。私には何のことかとんと分からぬ。小田急沿線にある私立医院の老医師は女性の患者には腎う炎の病名をつけるのだという。わしは腎う炎の専門医と自ら宣伝しているそうな。たまに知らずに来院した男性にも腎う炎の病名は変わらないという。

鰯の頭も信心から。はっきり病名を言われるとほっと安心できるのかも知れぬ。

渋谷のある診療所の老センセイは、わかった≠ニ大声で膝をポンと叩く。その音を聞くとセンセイは病名を見つけて下さったのだと思い、安心して任せられるという。月夜の狸の腹鼓のように、また月の中の兎の餅搗きのように安堵の響きになるのだと患者に評判がよかった。

「車が着きましたよ」。うちのヨメさんは、自分の家にでも入ったように玄関を上がり、「おまたせしました。わーきれい■若くなりましたよ」と大声で言う。いつも明るく幸せを撒いて行くような人柄は内も外も関係なく楽しい。「さあ帰りましょう」と、私の右側に寄った。私は白内障のため杖代りに右側に寄りかかる。

「どうもおさわがせしました」とお客たちに詫び、オーバーを着せて玄関のドアを開けた。

ヨメさんにも我が家のヨメさんのようなのもいるんです。

おしゃれなオバちゃん、お先に失礼いたします。 

 (川崎市 郷土史研究家)

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随筆通信 月 2009年 2月号/通巻74号

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