じゃんがら恋唄 池部淳子  (随筆通信 月82より)
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じゃんがら恋唄
池部淳子

いわきから東京の句会へ行くために、特急に乗って上京しようとしていた日曜日、車中で俳句を思案していると、社内販売員が通路を通った。

早朝の出立だったので、用意も満足ではなかった。それで「出席の会員のお茶請けでも買おうかしら」と、販売員を見て一瞬思った。そこで買ったのが「みよし」本舗の『じゃんがら』だった。

句会が始まってお茶の準備ができた頃、差し出したこの『じゃんがら』が何と、ひとしきり話題になった。「この包装紙の絵柄は何ですか?」に始まって、次々と質問が飛び出したのである。

揃いの浴衣に白く長い襷を背中に垂らした衣装、膝元で打つ太鼓、チンチン打つ鉦、菓子『じゃんがら』の包み紙に描かれた絵柄に会員たちはとても興味をもった。

そこで,この菓子の命名のもとになっている、いわきの伝統芸能『じゃんがら念仏踊り』から説明することになった。

いわきの旧盆に各青年団の一団が、新盆の家で霊の冥福を祈り、また家族を慰めるため,演奏しながら踊る『じゃんがら念仏踊り』を全国的に知らせることができないだろうか、そういう企画がないだろうかと、常々思っていたので、句会の会員たちから興味を持たれたことはとても嬉しかった。

その日の深夜いわきにもどって、月曜、火曜と日が進んでいった火曜日の夜遅く、東京の会員の一人から電話があった。

「驚きましたよ。今夜テレビで、いわきの紅さんという歌手が『じゃんがら恋唄』という歌を歌ったんです。お話を聞いた直後だったのでびっくりして、電話をしました。こんな偶然もあるんですね」と、驚きながら知らせてくれた。

『じゃんがら恋唄』という歌があると知ったのはこの時である。どんな歌なのだろうかと、興味を持った。

ところが、何と翌日、これも偶然に『じゃんがら恋唄』のテープを聞くことになったのである。あまりにも偶然、偶然が重なるので驚いてしまった。

やはり、その歌には間奏に『じゃんがら念仏踊り』が収録されていた。特徴ある太鼓の音と鉦の音、そしてゆったりした祈りの声というのか、掛声というのか、言葉がかすかに入っている。

「これがいいのよ」と思いながら聞いたが、踊りの演奏はわずか何秒というもの。もっと長く聞かせたい。できるならば、舞台上で実際の『じゃんがら念仏踊り』を見せたい。そんな思いがつのった。

でも、今回テレビで『じゃんがら恋唄』が放映されたことで、いわきの『じゃんがら念仏踊り』も少しは世に知られただろう。

それに情報化時代の今、いわきの青年たちが『じゃんがら念仏踊り』を全国に、いや世界に知らせる工夫をしないはずはないと思う。いや、思いたい。

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2009年 10月号/通巻82号

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