自転車 池部淳子  (随筆通信 月88より)
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自転車
池部淳子

いわきの桜は小さく固い蕾だが、4月4日に上京したとき、東京は桜が満開。東京といわきの気温の差をしみじみ感じた。

それでも、よく晴れて明るい陽射しのときはいわきも春らしさを感じる。そんな日は自転車に乗って買物にでも行こうかと心が動く。

その自転車であるが、背の低い私に合う自転車を探すのが大変だった。大人用の小さい自転車がないのだ。止まったとき、両足が地に着くほうが良いと聞いていたので子供用のものにしようかとも考えたが、子供用の車体は派手というか、艶やかというか、ピンクとか、ライトブルーとかで、絵が描いてあるものもある。これでは目立ちすぎると、躊躇した。近隣のホームセンターを数箇所見て回ったが、思うようなものがなかなか見つからなかった。

そのうち、「老人・子供用」と紹介されているものを見つけた。老人用というのが安心させた。その自転車は、大きさは子供用並だが、車体ががっしりしていて、タイヤも太め。色もシルバーと紺で、落ち着いた感じだった。予算をオーバーしたが、「やっと自転車が買えた」と嬉しかった。

自転車に乗った。とは言っても何十年も乗っていなかったのでびくびく乗車。駐車場でちょっと練習した。

乗り出して判ったことがある。車輪の小さい自転車は24 インチとか26 インチの自転車に比べて一漕ぎで進む距離が短いので、漕ぐ回数が多くなる。だから、遠距離は疲れてしまう。どこまでも行くというわけにはいかない。それに走行の自動車が多いので、危ない場面もある。若い年齢であれば瞬時に対応できるが、「老人用の人」では自信がない。

恥ずかしいが、一度道路脇の、丁度自転車がすっぽり入ってしまうような溝に落ち込んでしまったことがある。

行く手からトラックが走ってきた。目測だとトラックと自転車が何とか並べる位の道幅で、一瞬迷ったのだが、少し自転車に慣れてきた頃だったので、自転車を止めないで、このまま漕いで行こうとした。トラックとは無事すれ違い、トラックは風を切って後方へ遠ざかって行った。だが、問題はその後だった。すれ違うときトラックに煽られた。自転車がよろめいた。おまけにその時は自転車の前方に付いている金網の籠に重い買物を沢山入れていた。前方の車輪が溝の方へよろめいたら、その溝が土だったので、車輪が溝の縁へ食い込んでゆき、籠の重さのため戻すことができず、引き込まれるように前方の車輪から溝へ落ち込んでしまった。溝には運良く水が流れていなくて湿っていた程度、ハンドルが溝の土に食い込み、籠とペタルに泥がついたが、派手に落ちたわりには泥んこにならずに済んだ。裏通りなので人目はないが,溝の家からお婆さんが出てきた。「あらァ、荷物一杯で大変。大丈夫?」と声をかけてくれた。

これ以来、自転車では無理をしないことに決めた。冬の極寒の日、風の強い日は乗らないことにした。でも、これからは自転車に乗るにはいい季節。ささやかな楽しみとして「老人用自転車」を乗り回したい。

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2010年 4月号/通巻88号

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