プロローグ














 1996年6月で長年勤めたS社を退職し、次の会社に移ることになった僕は、1ヶ月あまりの休みを取って長期の海外旅行を計画した。こんな機会でもなければ、家族を放ったらかして1ヶ月もの旅に出るなど、なかなかできるものではない。
 旅の目的は当初から写真を撮ることだった。それも旅のついでに記念写真を撮るのではなく、あくまでも写真を撮るために旅をする。そのために常に自分を写真家だと言い聞かせた。とは言え、これは出版社が企画する取材旅行ではない。あくまでも一人の旅人として取材などではけっして味わえない感動をし、それを一枚一枚記録していきたかったのである。
 出発前、バスでトルコを移動することだけは決めていたが、細かい計画は全く立っていなかった。街の名前も位置もまるでわからない。そもそも、日本国内においてすらこんなに長期にわたって撮影旅行などしたことがない。
 果たして泊まるところは見つかるのか。言葉は通じるのか。気候はどうなのか……。
 徹夜でまとめた40kgを越す荷物を前に呆然としつつも、とにかく飛行機に乗り込んだのだった。
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