「ささやかな望み」  池部淳子  (随筆通信 月26より)
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こいしかわだより
ささやかな望み
池部淳子

 歩いて六、七分の小石川植物園に一人で行って、散策しながら写真を写したり、俳句を作ったりしたいとはっきり思ったのは一年前でした。

 それ以来、実行に移す日はこの日か、この日かと予定と暦を見比べながら決めてはだめになり、決めてはだめになりして、一年の時が過ぎてしまいました。

 こんなささやかな希望、簡単な行動が実行できないなど、いまどき笑われてしまいますが、わずか半日程度の時間を自由のために取ることができず、思い切って小石川植物園の門をくぐることができませんでした。

 でもやっと、二月九日に希望を叶えることができました。一年がかりでしていた仕事がほぼ終りとなって、心身ともに解放されたこともあり、曇り気味の日でしたが、歩き易い靴を履き、身支度をしてカメラを下げ、句帳を持ってでかけました。

 午後になって急に寒くなり、雲行きが怪しくなったこともあって園内には人が少なく、紅白の花が満開の梅林だけがカメラマンらしき人々で賑わっているという状態でした。私は園内をひとり嬉しく楽しく弾んで、カメラを覗いたり佇んで句を練ったりしながら進みました。

 とりわけ良い写真がとれたわけでもなく、良い句ができたわけでもありませんが、この日は思っていたことを遂に実現した記念の日でした。写真は、小石川養生所跡の升戸(今も洞れていません)と側の寒桜です。

 この世には望んだことが易々とできる人々もいるでしょう。でも私はささやかな望みさえもなかなかに果たせません。様々な条件や状況によって人生それぞれ容易であったり、困難であったりするのでしょう。

 願わくばささやかな望みでも、一つ一つ果たして、心の充足を感じたいものと思います。ささやかな望みを持ち続け、やっと叶えた者へのご褒美のように。

写真

(『月』発行人)

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随筆通信 月 2005年2月号/通巻26号


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