老いのつぶやき F挨拶 蒲 幾美  (随筆通信 月76より)
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老いのつぶやき F挨拶
蒲 幾美

海と山のある雲井温泉の民宿が、静かで、山海の珍味のおいしさと、家族並みの扱いが自然でとても気に入ったという友人の話に誘われて出かけた。川崎から車で三時間ほどで少々遠いが、山間を縫って登り下りの左右に漁村が見える風景は昔の日本の原点のような気がする。

ようやく宿の近くに着いたのに、どこも同じ宿のように見えて見当がつかぬ。ケイタイを使うと、すぐ前の小川のたもとで待っていたみどり荘のおかみさんが「オーイ」と大声で手を振った。

初対面からもう昔からの付き合いのような錯覚におちいる。杖を頼りのバァさんに飛んで来て、体を支えてくれる。農家を民宿に改造したのでまだ木の香も新しい。家族の居間と客間は二階にあり、障子一重が境で、声は筒抜け。 

畠で作った自家製のお茶が出る。「長旅でくたびれたやろ、風呂は一階の玄関のそばだからいつでも入るように」と。

早速かけ流しの温泉につかり、露天風呂にも。透明なやわらかい湯は塩からい。海水が交じっているというが、風呂上りでも湯冷めしない。

「只今申す」と、サッカー練習をしていたという小学校五年生の長男が突然挨拶に来た。何を言っているのか?「あら!すてきよ、今の挨拶もう一度言って」と家人が遠慮なく言うと、「只今申す」と繰返し頭を下げた。

申す言葉は貴人に対しての謙譲語=B古いしきたりが何の抵抗もなく暮らしの中に生きているのに驚いた。

「夕飯でーす」と障子が開いて一メートルもある流木を磨いて作った木製手作りの大皿に盛られた、目を見張る大まぐろの活き作り。鯛、鰤、鯖、鮑,海胆などなどに一同驚声。何に箸をつけてよいか眺めていて飽きない。漁村の民宿のすべてに新鮮さを堪能した。

前に書いたことがあるが、飛騨白川郷の宿に泊ったカメラマンの友人が、朝散歩しているとき,村人に挨拶すると「大儀でござる」と挨拶され、さすが平家落人の末裔といわれる村人たち、貴族社会の暮らしの伝統があることにシビレタという。

近年は方言≠ノ対する社会の考え方も変って方言研究やその内容など注目を浴びるようになった。

生まれ育ったふる里の方言に自信と誇りを持ちたいと思う。

 (川崎市 郷土史研究家)

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随筆通信 月 2009年 4月号/通巻76号

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