美しい客 池部淳子  (随筆通信 月80より)
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美しい客
池部淳子

7月27日、午前11時15分、「スーパーひたち号」が勿来駅に着いたとき、長身で、若く美しい二人のフランス女性がホームに降り立った。

私の妹がパリに3年ほど住んでいるうちに知り合った二十代の女性、ソフィーとセリーヌである。彼女たちは日本への関心が高く、日本へ行きたいと望んでいたという。この日、一時いわきに帰国していた妹を尋ねて来たのである。

勿来駅に降り立った二人を、妹はまず国宝・白水阿弥陀堂へ案内。丁度古代蓮の咲いている時期である。私は二つの巨大なリュックをあずかってタクシーに乗せ、家まで運んだあと、夕食の支度をしながら三人の帰りを待った。

二人は4日間東京で色々な体験をしたあと勿来へやってきて、続いて仙台へ行く計画であった。建築家であるソフィーは仙台に近年建てられた『仙台メディアテーク』を見るという目的をもっていた。図書館、映画館、ギャラリー、スタジオ、オープンスクウェア等から成る『仙台メディアテーク』は、建築家・伊東豊雄の代表作品で、建築物としての評価も高いという。パリの女性から教えられた。

簡単な抹茶の接待から始まった夕食は、長時間に及んだ。フランス語と日本語が行ったり来たり、通訳の妹を間に、東京で居酒屋を経験した話や、お茶について抹茶と煎茶と玉露はどう違うのかとか、料理の魚についての回游経路や、また食事をしながら料理について話をするのはフランス人と日本人は似ている、アメリカ人などは食事については話さないとか、話題の中の言葉を質問しながら、二人は日本語を次々覚えようとする。清清しい若さである。

翌朝、フランス人は皆そうだというが、二人は朝風呂である。朝食を一緒にしたいという。

この日は海辺のリゾートホテルでいわきの海を楽しみながら泳いだり、食べたりして一泊、次の日『仙台メディアテーク』を尋ねて仙台へ行くことにしていた。

ホテルへのタクシーを予約したあと、身支度をして朝食だが、その間にも話題は広がり、二人は日本について知りたがる。

庭の紫陽花の色から始まって、日本庭園の話となり、話は俳句に及んだ。「俳句とはどんなものですか」と。

「俳句は五七五のリズムをもった十七音の中に、季節によって選ばれている季語という言葉を一つ入れることを条件として表現する、日本の伝統ある詩です」「高名な俳句作家として、江戸時代の俳人で松尾芭蕉という人がいます。有名な句を一つ紹介しましょう。閑さや岩にしみ入る蝉の声」と話していった。若い二人は指折り数えながら聞き入る。

そこへタクシーが迎えに来てしまった。俳句の話は時間切れ。大きなリュックと共に二人は発って行く。「ありがとうございました」「ありがとうございました」とくりかえしながら…。妹はずっと同行して、仙台まで二人を案内して行った。

見送ったあと私は考えた。日本庭園や俳句など、日本の伝統文化を日本人同士で何となく判りあっているだけではだめだ。これからは外国人にも説明できるようにならなくては。ああ、俳句をもう少し説明したかったのに…。(『月』発行人)

 (『月』発行人)

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随筆通信 月 2009年 8月号/通巻80号

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