「食在中国」  杉山康成  (随筆通信 月27より)
月27 ささやかな望み(池部淳子) 月27 初牛団子(蒲 幾美 ) メニュー
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食在中国
杉山康成

 ここは上海の中心部を走る南北高架道路の下。近くには高層マンションが建ち並んでいるが、大きな道路沿いのためか人通りは少ない。昼を食べるために安食堂にふらりと入ってみたが、他に客は誰もいない。店員の視線が集中する中、レジの上にあるメニューをじっと見つめること5分、結局、小姐(店員)を呼び、「君が一番好きな麺は?」と聞いた。彼女が勧めたのは、その店で2番目に高い「青椒肚片麺」。青椒がピーマンであることはわかるが、肚片は一体何なのか。まあ、何が出てきても食べられる自信はある。しばらくして現れたのは、やわらかく塩味で煮込んだ極厚の豚の胃袋(肚片)とピーマン、それに中国独特の小さい青梗菜の乗った麺だった。麺は細め、スープは骨付き肉のダシが良く効いた濃い目の塩味。無造作に半割りにした、ほとんど生のピーマンが、良く煮込んだ肚片と絶妙なバランスである。さすが小姐が勧めるだけのことはある。日本でこれだけのものを食べさせる店があるとすれば、相当の通が通う店だろう。値段もここでは9元(120円ほど)だったが、恐らく1000円から1300円はするはずだ。

 中国に行くようになって、日本の中国料理には興味がなくなった。確かに、日本でも高級な店に行けば、味においては中国に負けない店もあるだろう。しかし、それはあくまで、たまに食べる「高級中国料理」だ。中国人には、日本のグルメのような意識はない。それでいて、毎日、当たり前のようにうまいものを食べ続けているのである。中国の料理には、中国人の貪欲な好みを吸収しながら発達してきた不気味とも言える迫力がある。

 場所が変われば、そこにはまた独自の素材があり料理がある。以前、ベトナム国境近くの南寧という町に行ったとき、中華なべに水を張り、鶏を入れて、さっと煮立てただけの何の変哲もない料理が出た。味付けは塩だけである。最初は鶏の水炊きかと思ったのだが、主役はどうやらスープらしい。そのスープを一口すすって愕然とした。信じられないようなダシが出ているのである。この地方は水がおいしく、また、地鶏も有名らしい。確かに素材がいいのだろう。しかし、さっと沸騰させただけなのに、なぜこのような味が出せるのか。僕は、その味を見極めようと何杯もおかわりしてみたが、結局、どうしても味わいつくすことはできなかった。

 最近、急速な経済成長ばかりが取りざたされる中国だが、このような食文化を持つ中国の力と魅力は、決して安い労働力などという薄っぺらなものだけではないのである。

(東京都 会社社長・理学博士)

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随筆通信 月 2005年 3月号/通巻27号


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