「ど根性」  蒲 幾美  (随筆通信 月43より)
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ど根性
蒲 幾美

 丘陵を開拓した団地の道路沿いの土堤に、鼠黐ねずみもちが四メートル余の大木になって斜面に根を張っている。六、七月頃に小枝の先に白い四裂の円錐状の花穂をなして咲く。歳時記によると鼠黐の名の由来は、ソヨゴ科の黐の木に似ていて冬になると実が鼠の糞に似ていることから来たものという。「ねずみもち」には姫椿、玉椿、寺椿など美しい別名があるのに鼠黐とは不欄ふびんである。

 ここに移り住んで三十数年になるが、毎年高台の舗道脇の小さな隙間から一メートル余の紫式部が実をつける。ある時その美しさに見とれていると高台の住人が式部の小枝を折ってくれた。驚いて家へ戻りすぐに花瓶に挿したが、数時間ともたなくて色艶を失い悔いだけが残った。

 先日実が色付く頃に見に行くと緑の葉が上から被さっている。蔦の葉を除けると一本の式部の幹は膝の高さでバッサリと伐られていて、表札を見ると住人が代わっていた。数年前“ど根性大根”が騒がれだすと、あちこちからど根性の植物が噂になったが、恵まれない環境から生き抜いてきた実紫もその一つであろう。

 私の住む町内の人たちは、それぞれ家の回りや庭に緑を殖やす楽しみを共有しているが住む人が代わると思わぬ事態も起きる。町内の角地にある立派な庭園の主が代わったとたん庭の樹々や緑一切を伐採、庭石だけがのこった。“町のシンボル”になると見上げていた大きな桂の樹も伐られ、人々は樹齢をまっとうできなかった桂の樹に悲嘆したのだった。

 世界が近くなって、空路や船便の荷に付いて、物の種が運ばれる。また外来の植物や動物を収集し飽きるとペットなども山野に捨てたり川に放ったりする者もいる。否応なしに動植物は異郷でその生命力を発揮している。

 近年気象の変動から植物によっては不作や過剰に出来すぎたり、地球の温暖化が原因といわれているが結局は人間が自然を壊していくからだという。

 都会暮しから農村へ戻る帰郷組。逆に次々建つ高層マンションの便利さと、都会生活の楽しさや夢を持って都市に集まる都市型。食生活の和洋や、生活様式などで日本人の体型も変っていく。プラスマイナスはあるが生き方は自由。都市と農村の調和が成り立っていくのだろう。

 世の中の喜怒哀楽の情報の中で、このごろ希望や明るさをもたらしてくれるのは、世界で活躍する日本のスポーツ選手の純粋な愛国心と強い精神力(根性)である。

 食生活と健康な体力。時世を正しく判断する思考力と、どんな苦難も乗り越えるど根性をもつことを孫や曾孫の世代に願いたい。

(川崎市 郷土史研究家)

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随筆通信 月 2006年7月号/通巻43号

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