「F君のこと」 杉山康成  (随筆通信 月54より)
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F君のこと
杉山康成

 先日、中学生の娘たちが学校の友達のことを話すのを聴いているうちに、いつしか自分の子供の頃の友人、F君のことを考えていた。F君のような友達は、娘たちの周りにはいそうもなかった。あまり考えたことがなかったが、F君は実に稀有の友だったのである。

 F君とは、幼稚園の頃からの付き合いだった。お父さんは高校の校長先生で、家の中には独特の高尚な雰囲気が漂っていた。一方、F君は8人兄弟の5番目で、上の3人の兄姉はすでに独立していたが、大家族独特の開放感があった。

 F君の家は、僕の家から1分もかからないところにあり、せまい路地に面して玄関が二つあるかわった造りの家だった。その左の玄関から入り、奥の梯子のような階段を登った屋根裏部屋がF君の部屋だった。彼は、そこで誰にも邪魔されず、マンガを読んだり猫と遊んで過ごしていた。押入れには、チーズやジャムなどの詰め合わせがいっぱい押し込まれており、F君は時折それらの中から何かを引っ張り出してきては一口二口食べると、残りをあっさりゴミ箱に捨ててしまうのが常だった。僕は、昼夜の区別なく、F君がいないときでもその部屋に勝手に上がりこんでいた。

 ある日、小学校から帰ってF君の部屋に行くと、薄っぺらなお菓子の箱の中で何かがごそごそ動いている。僕がギョッとしていると、F君は箱を少し開けて中身を見せてくれた。そこには、狭くて動きが取れないコウモリがもがいていた。夜中に猫がくわえて帰ってきたのだという。それにしても、F君は犬や猫の扱いには慣れた子供だった。

 F君と僕の性格は、正反対と言っていいほど違っていた。僕が内気な優等生タイプだったのに比べて、彼は頭の回転が速いいたずら小僧だった。小2のとき、僕の家で畳にこぼした水を電気掃除機で吸い取って一発で壊してくれたことがある。彼は、しばらく我が家に出入り禁止になった。彼はその時すでに、何軒かの家から出入り禁止になっていたが、それはひとえに、思いついたことは、すぐに実行に移す彼の性格が原因だった。

 F君の遊びに対するアクティブさは尋常ではなかった。彼は、毎週のようにおもちゃを買ってもらっていたが、新しいおもちゃを手に入れる度に、それを使ったユニークな遊びを次々と考案する。時には町内の何人もの子供を動員することもあった。そして、後にはいつも、半ば壊れたおもちゃが残骸のように放り出されているのだった。

 F君は当初、僕のことをドン臭い奴だと思っていたかもしれない。しかし、彼と夢中になって遊ぶうちに、僕もおもしろいアイデアが次々と浮かぶようになった。そして、中2のある日、「やると決めたことは、確実にやっていく奴だな……褒めているんだよ」と、F君が、突然、言った。いつしか彼も、僕を認めてくれていたのである。

 もしF君が近所に住んでいなかったら、僕は自分のなかに隠れている創造性に一生気がつかなかったかもしれない。そして、その後の人生で、僕が常に独創性にこだわってきたのは、まさにF君と遊んだ日々があったからなのである。

(東京都 会社社長・理学博士)
E-mail:ebiman@kb3.so-net.ne.jp HP:http://ebiman.fc2web.com/

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随筆通信 月 2007年 6月号/通巻54号

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