老いのつぶやき C情報取材(1) 蒲 幾美  (随筆通信 月73より)
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老いのつぶやき C情報取材(1)
蒲 幾美

加齢で歩行が困難になってくると、話し相手も限られてくる。そうした中で、世間話が聞けるのは,病院と美容院の待合室。

背中合わせに長椅子に掛けて、耳だけはそばだてている。

たかバァさんは先日眼科へ行った。「目にころころ異物が入っているみたいで、痛くて涙が出て、鼻から水鼻が出るんですけど」と言うと、「えっ…涙と水鼻が一緒に出るなんてきいたことがない」と言われた。今度はこちらがびっくりした。「だって昔から目から鼻に抜けるって言葉あるよナ」「ある、ある」同齢のバァさんは言う。「医者か研究生か知らないけど、私らの孫の世代でしょ、そりゃ孫は知らないよ」と。

美容院は楽しいネ。日頃のストレスを洗髪と毛染で寝椅子に手足を伸ばし、三つのセットの椅子から美容師と客の会話が伝わってくる。昔のお嬢さんたちの誰に気がねもなくきみまろ≠フ会話のように若く綺麗になりたい思いを甦らせている。皆六十代の中高年。

頭のてっぺんから出ているような一オクターブ高い調子で話し上手のオバちゃん、必ず話す言葉の前置きにはウチのヨメさんは明るくていい人なんだけどが入る。「大事に使ってきた有田焼の茶碗を、そそっかしい孫に割られては大変と片付けようとして、手が滑ってガチャン。そそっかしいのは孫ではないのよ」今年のお正月もホテルで年越しなさいましたか?「いや、暮の三十一日に長男のヨメから主人の所へ電話で、突然で申し訳ありませんけど、年越しに夫と子供だけ預かっていただけませんかと言う。嫁の親が老人介護施設に入っているので、そちらに行きたいので,と言う。介護に行くというの反対できないでしょ! 主人は孫たちの来るのは毎年正月すんだ後の冬休みと決まっているので、女房に聴いてくれと私に電話を渡すのよ。そんなわけで、年越しはおせち料理を食べ、主人は飲んで酔えばすぐ床に入る。私と息子だけの親子水入らずの暢気で楽しい年越しでした」と。

美容師のセンセイも大変だ。客の一人ひとりの話をまじめに聞いて相槌を打ち、話を合わせている。職業や地位、経済状況を頭の中に詰め込んでいて応対している。世渡りの苦労人だなあと感心する。

「私は塗物が好きで正月出して大事に使っていますよ。けれど、娘たちは塗物よりはハイカラなガラス製の食器や陶器が好きで、孫の運動会の弁当箱に丁度いいと運動会に持って行ったと聞いて情けないやら腹が立ってきましたネ」。 

今時の若い人は、実家はおせちを食べるところで、帰りは孫にはお年玉をたっぷり集め、重箱にはおせちの残りをいっぱいせしめて持ち帰る。

「昔は姑が、正月中に食べる餅やおせち料理を沢山作って里帰りする嫁に持たせ、物分りがよい姑ぶりを示したものでしたけどね」。

時代と共に髪の形も食生活も変わって行く。

 (川崎市 郷土史研究家)

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随筆通信 月 2009年 1月号/通巻73号

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